緑間クンの相棒

 今朝、学校へ行くとちょっとした椿事があった。緑間が何人かの女子に囲まれている。
 何と! あの緑間が女子にモテてる?!
 ――いや、まぁ、緑間は運動も勉強もよくできるし、モテて当たり前なんだけど、今まで孤高を保っていたエース様だったからさぁ……話合うのは主にオレだけで。
 良かったじゃん。緑間。
「うーす」
「あ、高尾君。おはよー」
 仲良しのひなちゃんが言った。オレも割とこの子が好きだ。――でも恋じゃないぞ。ほんとに。ていうか、バスケバスケで恋どころじゃねぇもん。まぁ、楽しいけどな。
「あのね、緑間君がね、高尾君のこと褒めてたよ」
「ひな子。余計なことは言わなくていい」
 ――へぇ。オレのこと褒めてくれてたんだ。緑間――真ちゃん。
 なんか、嬉しいかも。
「あ、高尾君、嬉しそう」
「嬉しいぜぇ。だって、真ちゃんオレのこと認めてくれたんでしょ?」
「フン……」
 緑間は眼鏡のブリッジに手をかけた。オレはそれを肯定とみなす。
「どんな話か聞かせてくれる?」
「えっとね……」
「駄目なのだよ」
 緑間に一喝されて、
「高尾君、ごめん」
 と、ひなちゃんは謝った。うん。そりゃ怖いよね。195㎝の声低い男に一喝されちゃ。
「おい、ちょっとこれ見てみろよ」
 男子のこれまた割と話をする田部と瀬川が来て言った。
「何それ」
「おー、過去の月バスじゃん」
「うん。こいつが詳しくてさ」
 田部が瀬川を指差した。
「へぇー、瀬川ってバスケ好きなんだ」
「うん。オレ、体動かすの苦手だからもっぱら見るだけなんだけどね。ほら、ここ。『帝光中のNo.1シューター、緑間真太郎』」
「わー、すごーい」
「雑誌に載るなんてよっぽどじゃん」
「あたし知らなかったよ。緑間君がバスケやってたのは知ってたけどさ」
「しかもこれが過去の話だからさ――今、緑間がどこからシュート撃てるかわかるか?」
「まさか相手ゴールの元から自分チ―ムのゴールに入れる――なんてことはできないわよね?」
「そのまさかさ」
「きゃー、うっそー」
「どうして隠してたのよ、緑間君!」
「別に隠していたわけじゃない。ただ人事を尽くしたまでだ」
「えー?! かっこいー!」
 良かったな。真ちゃん。みんな真ちゃんのいいとこわかってきたようだよ。
 真ちゃんも無碍に追い払おうとはしない。心なしか楽しそうに喋っている。
 ――ちょっと、相棒としては真ちゃんを取られたようで寂しいけどな。
 オレがちょっと複雑な気持ちで真ちゃんを見ていると――ばっちし真ちゃんの眼鏡越しの目と目が合った。
(おや)
 真ちゃんが――笑ったような気がした。気のせいかな。口角もほんの僅か上がっているし、何より目が優しい――ような気がする。
「――今日さ、バスケ部の練習見に行ってもいいかな」
「アンタは部活があるでしょ」
「あたし新聞部だもん。取材ってことにする」
「ずるがしこーい」
「ねぇ、高尾君、緑間君、いいかな」
「いちいちオレに許可を求めめなくても来たければ来るといい」
「まぁまぁ。一応監督と大坪センパイには話つけといた方がいいんじゃない?」
「そうだな……」
 大坪センパイと監督は案外あっさりOKを出してくれた。
「邪魔にならんようにな」
 と、彼女達にきっちり釘をさしたけど。
「はーい」
 基本、秀徳の生徒は頭がいいせいか、こっちのテリトリーに無闇に入って来ない。それが助かった。
 彼女達は騒いでいた割には大人しく監督達の言うことを聞いていた。真ちゃんのスリーポイントシュートが決まる度、歓声が上がるのは止まらなかったが。
 あれ? また笑ってる?
 真ちゃん、注目されんのが嬉しいのかな。こりゃオレもちょっと本気出しますか。宮地センパイも木村センパイも、いつもよりリキ入ってるみたいだし。
「お疲れ様でしたー」
 オレ達はひなちゃん達とハイタッチをした。何と、あの緑間まで。
「――おい。緑間のヤツ、前とちょっと変わってね?」
 宮地センパイの言葉にオレは、
「そっすか?」
 と答える。真ちゃんは言われるほど変わってはいないと思う。
「そっか。オマエはいつも一緒にいるからわかんねぇか……」
 宮地センパイは呆れたように溜息を吐く。なんだよー。何が言いたいんだよ。センパイ。
「高尾くーん。緑間君との連携プレー、見事だったわよー」
 ひなちゃんが嬉しいことを言ってくれる。オレは全開の笑顔を見せて、
「ありがとー」
 と手を振ってみせた。――真ちゃんがこっちを見てる。何か言いたそうだ。
「ん? どしたの? 真ちゃん」
「どうもしないのだよ。それより高尾」
「ん?」
「いつか――オレの家に遊びに来てもいいのだよ」
「ほんと?」
「ああ。うちの家族が――オマエに興味を持ったらしい」
 緑間の家族が? 家族とどういう話してんの? 真ちゃんは。
「真ちゃんはどんな話をしたの?」
 もしかして悪口とかではないよな――緑間は偏屈だけど悪口を言う人種ではない。クラスメートにもオレのことを褒めてくれていたらしいし。くっそう、真ちゃんがオレを褒めてるとこ聞きたかったな。数Aの教科書さえ忘れてなければ!
 家族が会いたいっていうのは、こりゃ相当好印象を持ってるって感じだしな。
「だらしない顔をするな。高尾」
「え? いや――普通の顔っしょ」
「顔がにやけてる」
「ニヤけてるって言ったら真ちゃんもでしょ。今日だって笑ってたくせに」
「そ……そうか?」
 緑間が珍しく慌てている。ちょっと可愛いかもしんない。
「いつが空いてる?」
「んー、じゃ、明後日の午後」
「わかったのだよ」
 緑間はケータイを打っている。家族にメールしてんのかな。
「いいそうだ。その日は父もいる」
 真ちゃんの両親かぁ……想像つかないな。でも、真ちゃんが純粋培養っぽいのはわかる。お坊ちゃんなんだろうな、真ちゃんて。
「りょーかい」
 オレが敬礼の真似をすると、緑間は言った。
「そうそう。気を使わなくていいからな」
「なんか持ってく?」
「――特に何も」
「いや。でも、お袋や妹ちゃんは必ず何か持たせようとするから!」
「ふぅん。オマエは家族に愛されてるんだな」
 オレはちょっと噴きそうになった。――真ちゃんの口から愛という言葉が出るとは思わなかったよ。
「真ちゃんもさ、いつでもうちに遊びにおいでよ。妹ちゃんも真ちゃんに会いたがってたしさ」
「……いいのか?」
「いいよー。お袋なんて客をもてなすのが趣味ってとこあっからな」
「オマエの母親らしいな」
 真ちゃんと普通の会話をしている。初めはどうも違和感があった。――でも今は……平気で家族の話とか何かしたりしてる。
 オレ、真ちゃんに一歩近付けたかな。そりゃ、向こうは天才様だし、オレなんか敵うはずもないけど……。オレが真ちゃんの隣にいることを真ちゃんは本当に許してくれるようになったのかな――そう思うと胸が熱くなってきたり。今まではオレがひっきりなしに纏わりついているだけだったもんな。
「こら、オマエらも早くあがれ」
 大坪サンがオレ達をどやす。女子達は今日デジカメで撮った写真を見ながら結構真面目に討論している。うーん。みんな努力家だなぁ……ついオレも影響受けちゃうじゃねぇの。
 でも、努力が実るって嬉しいんだもんな。だから、辛くても努力するんだよな。オレも熱血高尾ちゃんになってる。
 オレ、そりゃ時々嫌になることもあるけど、真ちゃんのこと嫌いになれないし相棒って誇りも持ってる。
 ――オレ、真ちゃんに会えて良かった……。

後書き
この頃黒バス小説いっぱい書いてます! はっきり言ってハマってます!
去年……いや、今年の初めにはまだ黒バスにこんなにハマるなんて思ってもみませんでした!
2013.6.8

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