楓、ヒーローアカデミーに入る

 シュテルンビルト――。
 ステーションでは楓の父親、虎徹、その相棒のバーナビー――そして何故か『HERO TV』のプロデューサー、アニエスまでいる。
 楓がステーションに辿り着くと――。
「楓ぇ~。パパ待ってたぞ~」
 相好を崩して近寄る虎徹のそばをすり抜けて……。
「バーナビー様ッ!」
「楓ちゃん!」
 バーナビーと楓は抱き締め合い、久しぶりの再会を喜んだ。
「楓……バーナビーから離れなさい。ほれ、バーナビーも!」
「いーやーだー」
 楓はバーナビーから引き離そうとする虎徹に対して抵抗した。
「お父さんに触ると減退がうつっちゃうもんね」
「俺は病原菌か!」
「バーナビー様の方が強いもん」
 バーナビーがくすくす笑う。
「こら、笑うな、バーナビー。楓は俺のだ! 返せ!」
「これは僕の楓ちゃんです。虎徹さんは別の楓ちゃんを探したらどうですか?」
「うんっ! わたし、バーナビー様のだもん」
 二人はすっかり意気投合していた。
「はぁ~あ。娘なんて生むもんじゃねぇな。ちょっと大きくなったら他人のものだもんな」
「僕と虎徹さんは他人ではないでしょう」
 バーナビーの言葉に虎徹がボッと顔から火が出るように赤くなったのは気のせいか。
「き、気色の悪い冗談言うな!」
 楓は叫ぶ虎徹を後目に、
「バーナビー様も大変ね。お父さんのお守りしてるんだから」
 と言った。
「いや、なになに。僕は好きでやってますからね……」
「楓ちゃん」
 アニエスが口を挟んだ。
「あ、アニエスさん! こんにちは。今日も素敵ですね」
「ありがとう」
「楓、大きくなったらアニエスさんやブルーローズさんみたいな綺麗な大人の女性になりたいなぁ」
「いい子ね」
 アニエスが楓の頭を撫でた。アニエスはNEXTではないので、楓の能力には影響を及ぼさない。
「綺麗かぁ? アニエスが? ただ厚化粧なだけじゃねぇか」
 アニエスはヒールの踵で虎徹の足を踏みつけた。
「いっでーーーーーっ!!」
「んもう。楓ちゃんはいい子なのに、どうしてタイガ―はこうなのかしらね」
「すみません。アニエスさん」
「いいのよ。あなたは謝らなくて――きっと楓ちゃんの性格は母親に似たのね」
「ぐっ……楓……気をつけろ……アニエスには……そいつは視聴率の鬼……」
「お黙んなさい」
 アニエスは再び同じ個所を踏みつけた。
「いでーっ! いでーっ!」
「雉も鳴かずば撃たれまい、と言う言葉知らないんですか?」
 バーナビーは呆れ顔だ。
「楓ちゃん、あなたが活躍した回は最高の視聴率を弾き出させてもらったわ。ヒーローアカデミーを出て、立派なヒーローになれば、『HERO TV』は安泰よ」
「はいっ! わたし、一生懸命がんばります!」
 楓は拳をぎゅっと握った。
「期待しているわよ。――もちろん、タイガ―にもね。これからもがんばって」
「へいへい」
 しゃがんで足を撫でさすりながら虎徹は適当に返事した。
 虎徹は今、能力が減退したとは言え、『ワンミニッツヒーロー』として再び売り出したのがかえってウケて、今では『中年の星』と呼ばれている。
 滅多に口には出さないが、そんな父親を楓は誇りに思っている。
(ま、バーナビー様には敵わないけどねぇ)
 あくまでバーナビー至上主義の楓であった。
「楓ちゃん、僕達、ヒーローアカデミーに案内するよ」
「ほんと?!」
 わーい、と万歳する楓。
「じゃ、私は仕事に戻るからね。ちゃんと案内しなさいよ、タイガ―」
「へいへい。行ってらっしゃい」
 アニエスは帰って行った。
「ねぇ、バーナビー様。アニエスさんは何しに来たの?」
「未来のスターヒーローに挨拶に来たんだって」
「スター? わたし、スターになるの?!」
「活躍次第ではね。大丈夫。君は可愛いし、人気者になるよ」
「そうだぞー。楓は可愛いんだぞー。『HERO TV』に出るようになったら、お父さん毎回録画するからな」
「お父さんも頑張ってよね。皆の為に」
「おう、頑張る!」
 アニエスの時は気のない返事をしてた癖に、楓相手だと途端にやる気を見せ始める。バーナビーが苦笑しているようだった。
 ヒーローアカデミーに行く途中、バーナビーは楓にいろんな話をしてくれた。
 ワイルドタイガ―こと虎徹と強盗を捕まえた話など、楓は面白く聞いていた。
「すごいんだね、バーナビー様。お父さんも」
「ええ。虎徹さんはすごいですよ」
「二部リーグも中継やったらいいのに」
「そういう話も出てるって、アニエスさんから聞きましたよ」
「楽しみ~」
 ヒーローアカデミーに着いた時、楓は、
「おっきい~」
 と感想を呟いていた。
「いろんなNEXTがいますからね。うっかり触られないように気をつけてください」
「うんっ」
「ここにはびっくり人間がうじゃうじゃいるからなぁ……楓が首の伸びる化けモンになったら、パパ泣いちゃうぞ」
「勝手に泣けば」
 楓が反抗的なのは思春期だからである。いまいち虎徹には素直になれないのだ。けれど、虎徹とは血と言う絆で結ばれている。本当はこの父親が大好きなのだ。
 楓達は校長室に行き、校長先生に会った。
「鏑木楓です。宜しくお願いします」
 楓が頭を下げた。
「ああ、君が鏑木くんか。まぁ、気を楽にしなさい。宜しく」
 人の良さそうな笑みを浮かべ、校長が言った。
 校長室の扉が開き、二人の男女が現われた。
「お呼びでしょうか。校長先生」
 男子の方がはきはきした口調で訊いた。
(わぁー……この人かっこいい……)
 健ちゃんもかっこよかったけど、この人もハンサムだなぁ……。
 楓は男子をぼーっと見つめていた。金髪の男の子は、楓の視線に気がつくと、にっこり笑った。頬が紅潮するのが自分でもわかる。
(きゃー。ごめんなさい、バーナビー様! うっかり見惚れてしまいました! わたしにはバーナビー様がいると言うのに!)
 楓が心の中で謝る。
 女子の方も美人だった。眼鏡をかけている。所謂眼鏡美人というやつだ。
「ケリ―・アダムソンです」
「メアリ・バーンズよ。仲良くしましょうね」
「アダムソンくんとバーンズくんはクラス委員なんだよ。――鏑木くんをクラスまで案内してやってくれたまえ」
「わかりました」
「行きましょう。鏑木さん」
「えっと……楓、でいいです」
「わかったわ。楓さん。――こっちよ」
 三人は校長室を出て行った。
 虎徹とバーナビーの二人は校長室に残って話をしているようであったが、内容は楓にはわからない。
 ただ、このヒーローアカデミーがすっかり気に入ってしまったこと、そして、何とかやっていけそうだと言う思いがあった。
 クラスの人達も親切そうだった。自分達は知らないところで有名になってしまっているようで、質問攻めに遭ったのには閉口したけれど。ケリ―が上手く捌いてくれた。
(お母さん、見てて。ここで優秀な成績を修めて、立派なヒーローになるからね)
 楓は今日、ヒーローへの第一歩を踏み出した。

後書き
『ヤンキー故郷へ帰る』みたいな題名になっちゃいましたね。中身は全然違うけど(当たり前だ!)。
楓はヒーローアカデミーで人気者になると思います。
2012.1.26

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