ロシアとリトアニア

 ここは、ロシアの家――やたらに広い。
 今、この一室で。
 リトアニアとロシアは秘密の会談をしていた。
 実を言うと、会談と言うのは名ばかりで、プライベートで話をしているだけなのである。
「本当に、来てくれて嬉しいよ。リトアニア」
「いえ……」
 胃薬が欲しいリトアニア。
 ロシアは、ふとした拍子に恐ろしいことを言い出すので周りははらはらするのだ。
 更にラトビアが無意識にロシアに喧嘩を売るので、ますます怖いことになるのだ。――今は、幸いにして、ラトビアはいなかったが。
 可愛い顔してすごいことを言うラトビアに、リトアニアは、「どうしてそう素直に言っちゃうんだろう」と思う。本人に悪気はないのだが。
 その性質の故、災難を招くこともあるが、ラトビアは外見も性格も可愛い。だがロシアにいびられ、目に涙を溜めた彼を見るのは日常茶飯事である。
 まっすぐな素直さが、危なっかしく思うこともあるが、少し羨ましくもある。だが、自分にはその真似はできないだろうとリトアニアは思う。
「寒くなってきたんじゃない? 薪、もっとくべようか?」
 ロシアの申し出に、
「いえ……」
 と、リトアニアは答えて、お茶を啜る。
 暖炉では火がパチパチとはぜている。
 もう冬も近い。
「僕、暖かいところがいいんだよね。イタリアなんかいいよね」
 ロシアは、南方志向が強い。
「ここは寒いものね」
「でも、この国の冬将軍のおかげでナポレオンの侵略を止められたんじゃありませんか?」
 リトアニアの言葉に、
「うーん、そうなんだけどねぇ……」
 と、ロシアは手を組み合わせる。
「やっぱり寒過ぎるよ。リトアニアもわかるだろう?」
「それはまぁ……でも……」
 リトアニアは言葉を捜した。相手が怒らないような言葉を……。これでなかなか気を使うものなのである。
「――ロシアさんは大国だから、いいじゃありませんか」
 結局、話題を変えることしかできなかった。
(それに、ベラルーシちゃんという可愛い妹もいるし)
 リトアニアは心の中で呟いたが、彼女のことを言うと、ロシアの様子が何故かおかしくなるのである。
 何かに恐怖しているような、そんな感じ。
 確かに、ベラルーシのロシアに対する想いは尋常ではないかもしれない。
 相手にダメージを与えるのが目的ではないので、リトアニアは敢えて彼の妹のことについては避けた。
「うん。僕、がんばったもの」
 ロシアは少し得意そうに答える。
「君と友達になる為にね」
「え……? それってどういう……」
「僕が子供の頃、君に会ったことがあるよね」
「ええ。ロシアさんがタタールの支配下に置かれていた時ですね?」
「うん。もうだいぶ昔になるね」
 ロシアが頷いた。
「今、こうして君と友達になれて嬉しいよ」
(友達……なのかなぁ)
 リトアニアの顔が引きつった。
 友達というより、上司と部下? いや、皇帝と奴隷?
 ロシアは無邪気だけど、残酷なところがある。
 気に入らないと、誰でもすぐコルホーズに入れようとした。悪魔も近寄らないコルホーズへ。
「僕は、友達がたくさん欲しいんだ」
 リトアニアが黙っていると、ロシアはにこりと笑顔を見せた。
 それは、大きな熊が微笑んでいるようだった。そういえば、体格も大きく、大型動物めいた愛嬌のある顔立ちのロシアは、どこか熊に似ている。
(笑った顔はいいんだけどなぁ……)
 それは、人の心を温かくさせる笑みだった。リトアニアはその笑顔は好きだと思った。
(自分が恐ろしがられているのが、わかっているのかなぁ……この人)
 愛想の良いロシアは、悪い人には見えない。
 それを見ているリトアニアは、少し心がほっとするような気持ちを覚えた。
「だからリトアニア、君の領土も欲しかったんだ。ポーランドもね」
 ――前言撤回。
 ロシアはやはりロシアであった。
「え? でも、僕のところは、イタリアみたいじゃないですよ」
 リトアニアも必死でかわす。
「そんなこと、関係ないよ。どっちも手に入れればいいだけのことだから」
 ロシアは笑顔のままでさらっと恐ろしいことを言った。
 リトアニアは背筋に寒気が走るのを感じた。
(ポー……君の空気の読めなさが羨ましいよ)
 リトアニアは、今は自身の国に帰っている親友のポーランドのことを思った。
 そもそも、自分は、何でロシアにいるのか。ロシアに招かれたからである。
 すっぽかされると何をされるかわからないので慌ててここに来た。
(俺とロシアさんの関係って……)
 やはり皇帝と奴隷なのではないか、とリトアニアは思った。
 リトアニアも東欧ではちょっとしたものである。昔は不敗と言われたドイツ騎士団を追い詰めたこともあった。尤も、農作業をしなければならなかったので、その時は包囲を解いて帰って行ったが。ちなみに、フィンランドには密かに感嘆されていたという事実をリトアニアは知らない。
 そんなリトアニアだがロシアは正直言ってどうも苦手だった。
 人をそらさぬ笑顔をして、何を考えているかわからない。時々苛められる。ロシアは、いつも笑ってくれていれば、もう少し闇の部分、子供のような純粋さ故の残酷さが少なくなればもっと好きになれるのに――。
「これからもまたちょくちょく遊びに来てね」
 ロシアの言葉にリトアニアは困惑するのを顔に出さないのようにするが精一杯だった。

後書き
やたら説明調になってしまいました。描写の上手い方に憧れます。
リトアニアは、ロシアに苛められていると思います。
でも、ヘタリア三巻読むと……強かったんだね! リトアニア! ギルも手を焼いたほどに。
この話、真面目にロシアとリトアニアの国の関係を書いたものだと思ってはいけません。
2010.5.29
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