変態☆義勇さん

「伊之助と善逸は?」
 義勇さんが俺に訊く。
「あ、蝶屋敷にいるって……伊之助はともかく、善逸は『男ばかりのむさくるしい環境には耐えられない』って」
「ふうん。あいつらしいな……」
 義勇さんは、善逸のことをどう思っているんだろう。
 俺は竈門炭次郎。――で、話してる相手は冨岡義勇さん。俺の憧れの人なんだ。かっこよくて美男子で――ついでに言うと、俺の秘密の恋人でもある。まぁ、しのぶさんにはわかっているはずだけど。
「宿に行くか? 炭治郎」
「だ……だけど、俺、心の準備が……」
 義勇さんはくすっと笑った。何だか、俺といる時だけはたまに微笑むことがある。これも、俺の秘密なんだ。だって、義勇さんは笑顔がとても素敵だから。
 ちょっと、独占したいかも……でも、義勇さんはみんなのものだから、独占するのも気が引けるよな……。
「では、ここでするか?」
「……宿屋に行きましょう」
 いくらお風呂に入ったり後始末を清潔にしたところで、勘のいい伊之助は何をしていたか気づいてしまうかもしれない。善逸も勘はいいけど、後片付けの跡は聴覚では図れないからな……。

 俺は、ドキドキしながら義勇さんと向かい合った。義勇さんとする時はいつもこうだ。心臓が飛び上がって踊っている。やっぱりこの心音で善逸にも気づかれてしまうかもしれない。
 伊之助と善逸。あの二人に俺達の関係を知られるのは、なんか嫌だった。伊之助も善逸も清らかだから。
 いや、ちょっと待て。善逸は清らかとは限らないけど。ちょっと邪なところがあるみたいだし。
 でも……俺が、義勇さんに抱かれているとは想像もしていないんじゃないかな。でなかったら、善逸のことだ。根掘り葉掘り訊いて来るかもしれないし。
「炭治郎」
「は、はい……!」
 つい声が裏返ってしまった。
「あの、俺、今日は何をすれば……」
 俺は義勇さんに訊いた。
「今は、何もしなくていい。ただ、見守っててくれ」
 義勇さんは着物を脱いで褌だけになった。そして――褌の間から立派な一物を出す。
「ぎ……義勇さん……?」
 何もしなくていい、とは、黙って押し倒されてろ、と言うことなのか?
「今から俺は自分で自分を慰める。炭治郎はそこで見ててくれ」
 え、ええええっ?!
 つまり、一人でするあの行為を俺の見ている前でするってこと……? 変態過ぎるよ、義勇さん……。それに、俺と言う存在がいるのに……俺には手を触れたくない訳?!
 まぁ、男同士で情を交わす、という行為自体、変態だと言う人もいるけど……。俺もその一人だったりするけど、義勇さんを知って、俺は変わった。
 なのに、今日は抱いてくれないなんて……。
 義勇さんは己をしごき出す。よっぽど帰ろうかと思ったが、そんな気にならなかった。何故なら――。
 義勇さんは、自身を慰めている姿も絵になるからだった。
 男の人が好きな男は、或るいは女性でも構わないけど――この義勇さんに蠱惑的な美しさを感じるのではないだろうか。
「はっ、はっ……炭治郎……はっ……」
 一物をしごきながらでも、俺の名前を呼んでくれている。そのことが嬉しいとは……俺も変態なんだろうか……。
 義勇さんの体に光る汗が飛び散る。外は薄闇。
「ああっ! 炭治郎!」
 ふと、疑問に思ったことがある。
 義勇さんは、一人での時も、こうやって俺の名前を呼んでくれるのだろうか。だとしても……ううん、だとしたら、やっぱり嬉しい……。
 その成長した一物で貫かれないのは残念だけど……。
 義勇さんの痴態を見て、俺の下腹も疼き出す。
 そうだ。俺だって男なんだ。そりゃ、まだまだ頼りない男かもしれない。けど――。
 もしかしたら、いつか義勇さんを抱けるのかもしれない……。
 胸が苦しい。義勇さんを抱き締めたい。今の実力では、返り討ちに遭うのが関の山だろうけど。
 こんなことをしている今だって、義勇さんはとても綺麗だ。そういえば、義勇さんを綺麗だと思ったのは、初めてだ。
 今まで、かっこいいとか、憧れの姿だとは思っていたけれど……俺の見ている前であえいでいる義勇さんを見ると、何だか俺が抱いているようで……直接的ではないにしても。
 しのぶさんは、こんな義勇さんの姿を知っているんだろうか。
 俺の名を呼んで乱れている義勇さん。俺が目で犯しているのを知って、それで感じている義勇さん。
 ……この、変態な義勇さん……女性達の憧れ、義勇さん……そして、淫乱な、義勇さん……。
 俺もそっと、前に手を伸ばす。ううん、上手くはいかないもんだなぁ……。
 はっはっ、と息を吐きながら、義勇さんはもうすぐ頂点に達しそうだ。あっ、そんな顔しないで……! 俺の方が先に……!
「義勇さん!」
 叫んだ時はもう遅かった。俺は、達してしまっていた。
 俺の放った精の一部が、義勇さんの顔を汚していた。義勇さんの、綺麗な顔を……。
「何だ。俺の自慰行為で、感じたのか? この淫乱が」
「そ、それは……」
 義勇さんが悪いんじゃないですか。もう言う気力はもうなかった。俺は、義勇さんが綺麗な顔しながらも乱れる、その姿を見ただけで、充分満足だった。
 にやりと、義勇さんは人の悪い笑みを浮かべた。俺も流石にぞくっとした。
「俺はまだ足りないが、炭治郎、お前は?」
 え? 今度は俺を抱くって言うの? さっきの今で?
 俺だって……義勇さんに抱かれたくないと言えば嘘になるけど……。
 柱って随分性に強い人多いんだな。まぁ、あれだけの体力を持っている柱達だ。精力も人一倍あるんだろうけど……。
「炭治郎も、あんな顔をするんだな」
「あんなって、どんな……」
「一匹の、雄の顔をしていた」
「?!」
「俺もな……昔はその手の男色家につけ狙われてたよ。それも、一人や二人ではなく。酷く気分が悪くなった。……でも、お前のことは嫌じゃない。お前は綺麗だ。炭治郎。俺が抱いた後でも、お前はひとつも変わらない」
「義勇さん……」
「きっと、お前は俺の元から離れる日が来るのだろうな……」
「なら、刻みつけてください! 俺が、一時は義勇さんのものであったという、証を俺の体の中に刻み付けてください!」
「そうか……では、今だけは、炭治郎……お前は俺のものだ」
 義勇さんの目が儚げに揺らぐ。俺の気のせいだろうか。
「そういえば……」
 義勇さんは頬に着いた俺の精液を掬い取って、その指を舐めた。
 ぞくり、と背筋が戦慄く。たったそれだけで……。
「あ、あの……これで綺麗にしますから……」
 俺は落とし紙を持ち出した。
「いや、構わん」
 俺が構うんですけど――。また下腹が疼く。偶然なのか故意なのか、ぴちゃぴちゃと、水音がする。
「よく慣らしてやらんとな」
 義勇さんの綺麗な指が、俺のあの穢れた場所へと入って行く。念入りに洗っては来たけれど……。
「義勇さん! もう解しましたから、入れてください!」
「……いいんだな?」
「俺が言い出したら聞かないのは、義勇さんも知ってますよね? 俺は頭だって固いし」
 ――そして、俺の体は義勇さんとひとつになってぐずぐずと溶けていく。
「あ、ああっ……!」
 自分の喘ぎ声が、さっきの義勇さんの声に重なった。義勇さんもこんな風に誰かに抱かれたりしたことがあるのだろうか。男色家に狙われたと言ってたけど……?
 いや、そんなことは考えまい。義勇さんに対する冒涜だ。
「義勇さん、義勇さん……」
 義勇さんがあえいでいる俺の昂ぶりに手を添える。それだけで、頭が真っ白になりそうだった。
 こんな快楽を、俺はまだ知らなかった。
 俺が、誰か女の人と結婚しても、こんな風にちゃんと出来るのだろうか……。いや、今は考えない。今は、俺は義勇さんの物だから。他の誰かを義勇さんとは、比べまい……!
 真っ新な、眩い光が、俺の眼前に差し迫った。そんな気がした。
 ……虫のすだく声が聞こえる。……秋だな。
「炭治郎。体を洗っておけ。それから……今日は、すごく、良かった……」
 義勇さんは、もう、凛とした冨岡義勇に戻っていた。あの言葉の最後の方……ちょっと照れたような感じがしたけれど、俺は声では義勇さんの気持ちはわからない。俺は善逸ではないから。
 けれど、すごく気持ちのいい、晴れやかな匂いが辺りに広がっている。今日の義勇さん、ちょっとおかしかったけど、義勇さんのあんな顔は、多分俺しか知らない。
 しのぶさんは知っているだろうか。あの義勇さんがこんな風にこの俺に、無理やりではなく己から、とても優しい口づけをしてくれるなんて……。

後書き
ははは、ちょっと変態ちっくな義勇さんを書いてしまいました。
きっと私も変態なのでしょうね(笑)。
炭治郎クン、絶対これ偽物だよぉ(笑)。
これは確か去年の作ですね。秋の話の模様です。
2021.12.07

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